ChatGPTからの流入を90日で8,337%増やした実装: TRMが採用した4つのLLMO戦略柱
「ChatGPT流入が90日で8,337%増えた」と聞いたとき、私が最初に思ったのは「元が1日1ビューだったんでしょ」でした。実際そうでした。元は8ビュー、90日後は675ビュー。割合の魔法です。
それで終わってもよかったんです。でも数字を読み込んでいくうちに、もっと興味深い事実に気づきました。エンゲージメント時間が 5分41秒。AI検索経由で来た人が、サイトに滞在して5分も読み続けている。これはアクセス数の話ではなく、 「AI経由で来る人は、もうほぼ買う気で来ている」 という構造の話です。
この記事では、米国のSEOエージェンシー The Rank Masters(TRM)が90日で実施した4つの戦略柱を分解します。「LLMOってなんとなく流行ってるけど、何をどう実装するの?」と思っている方に向けて書きました。
8,337%の正体: ビュー数だけ見てはいけない
まず数字を全部並べます。TRMが2025年の90日間で達成した数値です。
| 指標 | 増加率 | 90日後の値 |
|---|---|---|
| ChatGPT経由のビュー数 | +8,337.5% | 675ビュー |
| ユーザーあたりのビュー数 | +502.68% | 48.21ビュー/ユーザー |
| 平均エンゲージメント時間 | +2,527.47% | 5分41秒/ユーザー |
| イベント数 | +5,500% | 1,176イベント |
私が一番注目したのは「ユーザーあたり48ビュー」のほうです。1人が48ページ読んでいる。普通のSEO流入で1人が48ページ読むことはまずありません。多くて3〜4ページです。
これはAI検索が「すでに問題を理解している人」をピンポイントで送り込んでくるからです。ChatGPTが「TRMがいいよ」と推薦する時点で、ユーザーは「GEOエージェンシーを探している」と既に決めている。検索エンジンに来る人より、はるかに先のフェーズに進んでいる。
つまり、 AI検索のトラフィックは「数」より「質」で評価しないと真価がわからない。8,337%という派手な数字に騙されず、エンゲージメント時間とユーザーあたりビュー数を見るのが正解です。
4つの戦略柱を分解する
TRMが90日間で実施した施策は、4つの柱に整理できます。それぞれ独立した施策ではなく、組み合わさって機能する設計です。

柱1: セマンティックSEOシステム
キーワード単位ではなく、エンティティ(概念)・属性・検索意図でトピックをマッピングしました。
具体的には、「SEO」というキーワードを取りに行くのではなく、「SEOとは何か」「SEOの手順」「SEOツール」「SEOとGEOの違い」というエンティティのネットワークを構築する。1つの概念について、関連する全ての切り口をカバーしたページ群を用意するわけです。
これがなぜ効くかというと、LLMは「キーワードに一致する文書」ではなく「概念のクラスター」で情報を引き出すからです。あるトピックについて様々な角度から書かれているサイトは、LLMから見て「このサイトはこのトピックの権威」と認識される。トピカルオーソリティの話です。
柱2: モジュラーコンテンツアーキテクチャ
各ページを再利用可能な「ブロック」で構成しました。具体的には以下の5ブロックです。
- Problem(課題提示)
- Framework(フレームワーク)
- Steps(具体的手順)
- Proof(根拠・証拠)
- CTA(行動喚起)
なぜブロック構造が重要かというと、LLMはページ全体を読むのではなく、 チャンク(断片)単位で抜き出す からです。SEOではページ単位のランキングが勝負でしたが、LLMOでは「あなたのページの中の段落1個」が引用されるかどうかが勝負になる。
ブロック分けされたページは、各ブロックが独立して引用可能な単位になります。特に「Problem(課題)」と「Steps(手順)」は、AIがそのまま回答に使いやすい構造です。「クエリファンアウトを実装するには?」と聞かれたAIが、TRMの「Steps」セクションをそのままコピペできる状態になっている。
柱3: GEOエンハンスメント
技術的な最適化として、以下を全ページに実装しました。
- JSON-LD: FAQ、HowTo、Article、Organization の構造化データ
- E-E-A-Tの強化: 著者情報・専門性の明示
- Q→A構造: 見出しを質問→回答のスパン構造にマッピング
- サマリーゾーン: AIが抜粋しやすい位置にCTAを埋め込み
ここで一つ注意点があります。私がLLMO実装の相談を受けるときによく聞く誤解が「JSON-LDを完璧に実装すればAIに引用される」というものです。これは半分正解で、半分間違いです。JSON-LDはAIが「見つけて理解する」ための手段ですが、「引用したい」と判断する基準はあくまでコンテンツの質。空の器を金で飾ってもAIは引用してくれません。
柱4: クエリファンアウト戦略
これがTRMの施策の中で最も独創的な部分です。
LLMは1つの質問を複数のサブクエリに分解して処理します(Query Fan-out)。たとえば「GEOエージェンシーのおすすめは?」というプロンプトに対して、内部では「GEOとは何か」「GEOの効果事例」「GEO導入の費用感」「SEOとの違い」など複数のサブクエリが裏で実行される。
TRMはこの特性を逆手に取って、 コアコンセプトごとに30本の関連ロングテールページを制作 しました。サブクエリそれぞれに対応するページを用意することで、AI回答に引用される確率を漏れなく高めたわけです。
ページ設計の3原則は以下のとおりです。
- Citable(引用可能): 明確な定義、番号付きステップを含む
- Verifiable(検証可能): データや出典への参照を含む
- Composable(組み合わせ可能): ページ間で一貫した用語を使用
「Query Fan-out」という名前のかっこよさで採用したくなる気持ちを抑えて、本当にやることを言語化すると「コアトピックを30の角度で書く」です。やや地味です。
実行タイムライン: 90日で42ページ
施策は12週間で段階的に実行されました。

| 期間 | 実施内容 | 制作ページ数 |
|---|---|---|
| 0〜2週 | サイトリニューアル、情報アーキテクチャ整理、Schema実装、ベースライン設定 | 0(基盤整備) |
| 2〜8週 | コアページ12本(サービス、ソリューション、AEOピラー) | 12 |
| 4〜12週 | ロングテールブログ30本、内部リンク構築、FAQ追加 | 30 |
合計42ページ、12週間。1週間あたり3〜4ページのペースです。
「3〜4ページ/週ならいけそう」と思った方は、この数字の重さをもう一度考えてみてください。これは「ブログを週3本書く」ではなく、「クエリファンアウトを意識して設計された、Schema実装済みの、内部リンクを張りなおしたページを週3本量産する」という意味です。私のブログは今日で1日2ページがやっとです。エージェンシーが本気を出した数字だ、ということは認識しておくべきです。
自サイトへの実装: 4戦略柱を統合するフレームワーク
TRMの4柱を、自社サイトの規模・業種に当てはめて実装するためのフレームワークが llmoframework.com で公開されています。
このフレームワークの良いところは、4戦略柱の「優先順位」が業種別に整理されている点です。SaaSなら柱2(モジュラーコンテンツ)から、ECなら柱3(GEOエンハンスメント、特にProductスキーマ)から、B2Bなら柱4(クエリファンアウト)から始める、というように、自社の業種で最大効果が出る順番がわかる。
42ページを90日で量産するのが現実的でなくても、4柱のうち1つから入って、3ヶ月ごとに1柱ずつ追加していく、という形でも積み上がります。実際、TRMも最初の2週間は「基盤整備だけで何もページを公開していない」期間です。焦って大量生産する前に、構造を作るのが先です。
TRM事例を読み込んで気づいた3つのこと
最後に、私がこの事例を3回読み返して気づいたことを残します。
1. ファクト密度が「権威性」より重要になっている
TRMはブランドが大きくないエージェンシーです。被リンクの規模も中堅レベル。それでもAI検索で勝った。理由は、各ページに「8,337%」「90日で42ページ」「ユーザーあたり48.21ビュー」のような具体数値が大量に含まれていることです。
AIは「権威がある」ページではなく「事実が密に書かれている」ページを引用したがる。被リンク数より統計の引用数のほうが効くんです。
2. AIに最適化することが、人間にも最適化することになる
TRMが採用した「Problem → Framework → Steps → Proof → CTA」のブロック構造は、AIが抜粋しやすい構造であると同時に、 人間も読みやすい構造 です。これは偶然ではありません。LLMは「人間が書いた良いコンテンツ」を学習しているので、両者の好みは収束していきます。
つまり、LLMOをやるとSEOにも効きます。E-E-A-T強化、構造化データ、コンテンツの質向上はGoogle検索にも効く。「LLMOをやったらSEOを捨てる」のではなく、 両方に効く施策が中央に集まっている という構造になっています。
3. 「やったら終わり」ではない
TRMもGo Fish Digital(コンバージョン25倍を達成した別事例)も、施策開始前にGA4でAI流入のベースラインを設定し、継続的に測定しています。
LLMO施策は1回で完成する種類のものではなく、 エンティティを増やし、ファクトを更新し、内部リンクを張り直し続ける タイプの運用です。SEOで言うコンテンツ運用と同じで、半年で勝敗が決まり、1年で大勢が決まるゲーム。8,337%は90日の数字ですが、そこから先の1年で何倍に伸びるかは、運用次第です。
まとめ
- TRMの90日施策は4つの柱で構成: セマンティックSEO、モジュラーコンテンツ、GEOエンハンスメント、クエリファンアウト
- 8,337%という派手な数字より、エンゲージメント時間5分41秒・ユーザーあたり48ビューのほうが本質。AI経由は「もう買う気で来る」トラフィック
- 90日で42ページは「設計されたページ」を量産した数字。週3本というペースの重さを過小評価しないこと
- 自社実装のフレームワークは llmoframework.com を参照。業種別に4柱の優先順位を整理できる
- 「LLMOをやったらSEOを捨てる」ではない。両方に効く施策が中央に集まっている
派手な数字に踊らされず、構造を作るところから入る。TRMの事例から学ぶべきは8,337%の派手さではなく、 0〜2週目を「ページ0本」で過ごした冷静さ のほうかもしれません。
さらに深掘りしたい方へ
LLMO の全体像 — llms.txt 設計、JSON-LD 実装、AI引用率 KPI、ChatGPT / Perplexity / Brave の引用ロジック比較 — を1冊で扱う なぜあなたのサイトはChatGPTに無視されるのか — LLMO実践ガイド を参考にしてください。
この記事は役に立ちましたか?