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ブラウンノイズ 騒音計ではホワイトより13dB静か

Part 4 / 6 ノイキャンとマスキング 消す・覆う・届ける6章

ブラウンノイズは「ゴー」という低い音に偏ったノイズで、遠くの滝の音や、飛行機の機内で聞こえる音にたとえられることがあります。

このノイズには少し変わった性質があります。エネルギーの総量が同じでも、騒音計で測るとホワイトノイズより約 13dB 小さく出ます。 騒音計は人の耳の感度をまねて低い音を割り引いて数えるので、低い音ばかりのブラウンは、鳴っている量の大半が「うるささ」に数えられないのです。

氷山にたとえると分かりやすくなります。同じ大きさの氷山でも浮き方によって水面の上に見える部分が違い、騒音計が数えるのは、そのうち水面の上に出ている部分だけです。ホワイトはほぼ全部が水面の上に出ているのに、ブラウンは同じ大きさでも約 5% しか水面の上に出ておらず、残りはすべて水面の下に沈んでいます。

同じ形・同じ大きさの氷山が2つ並んだ図。左のホワイトはほぼ全部が水面の上に出ている。右のブラウンは水面の上に約 5% の小さな先端しか出ておらず、大半が水面の下に沈んでいる。水面は騒音計 (A 特性) が数えるかどうかの境目を表す

(水面の上に出ている割合は、騒音計で測った値と総量の比から描いています。ブラウンは総量より 13dB 小さいので約 5% です)

この性質が「話し声をどれだけ隠すか」の比べ方を裏返します。第3章 マスキング効果は帯域で決まるでは、3色を総量 (エネルギーの合計) でそろえて比べ、ブラウンが最も話し声を隠さないという結果でした。ところが騒音計で同じうるささにそろえ直すと、ブラウンが最もよく隠すようになりました。

話し声をいちばんよく隠すノイズを表彰台で比べた図。左は総量 (RMS) でそろえた場合で、1位ピンク 76%、2位ホワイト 61%、3位ブラウン 23%。右は耳の重み (A 特性) でそろえた場合で、1位ブラウン 72%、2位ピンク 59%、3位ホワイト 30%。数字は S/N 比 -5dB で話し声に混ぜたときの文字の誤り率

どちらの比べ方も間違ってはいません。違うのは物差しだけです。1kg の綿と 1kg の鉄は重さで比べれば同じですが、かさで比べれば綿のほうがずっと大きくなります。ブラウンノイズは鉄のほうで、エネルギー (重さ) の割に騒音計のうるささ (かさ) が小さいノイズなので、重さでそろえるか、かさでそろえるかで順位が入れ替わるのです。なお、ブラウンノイズで検索すると睡眠や集中への効果の話が多く出てきますが、この章が測るのは話し声の隠し方です。睡眠や集中は、第7章 (準備中) で研究の側からまとめます。

ブラウンノイズとは

ブラウンノイズは、音が1オクターブ高くなるごとに (ドから1つ上のドへ上がるごとに)、エネルギーが4分の1に減っていくノイズです。dB で言うと、1オクターブあたり -6dB。エネルギーが周波数の2乗に反比例する (1/f²) ので、低い音ほど強くなります。ピンクノイズは1オクターブごとに半分 (-3dB) ずつ減り、ホワイトノイズはどの高さにも同じエネルギーを持っています。

3段に分けた図。どの段にも同じピアノの鍵盤が描かれ、5つのドの位置に、そのドでの 1Hz あたりのエネルギーを棒で立てている。ホワイトは5本とも同じ高さ (1, 1, 1, 1, 1) で、音の感じは「サー」。ピンクは1つ上のドへ上がるごとに半分になり (1, 1/2, 1/4, 1/8, 1/16)、音の感じは「ザー」。ブラウンは1つ上がるごとに4分の1になり (1, 1/4, 1/16, 1/64, 1/256)、2本目から先はほとんど見えないほど低く、音の感じは「ゴー」

(棒の高さは 1Hz あたりのエネルギーです。1オクターブは高い音ほど幅 (Hz) が広いので、オクターブごとの合計で数えると、ホワイトは高い音ほど多く、ピンクはどのオクターブも同じになります)

聞き手に届く 20〜8000Hz のエネルギーを高さごとに数えると、ブラウンは 63Hz 未満に 68% を置いています。63Hz は、大きなスピーカーやヘッドホンでないとほとんど鳴らせない、体に響くような低さです。ピンクは、いちばん低い端 (20〜31.5Hz) を除いてどのオクターブにも 11〜12% ずつ配り、ホワイトはいちばん高い 4〜8kHz に半分を置いています。

名前は色ではありません。液体に浮かぶ微粒子が分子にぶつかられてふらふら動く「ブラウン運動」と同じ形のゆらぎを持つので、Brownian noise と呼ばれるようになりました (M. Gardner, “Mathematical Games”, Scientific American 238(4), 1978, doi:10.1038/scientificamerican0478-16)。ホワイトやピンクとの名前の違いは、マスキング効果は帯域で決まるのコラムにまとめています。

騒音計には小さく見える理由

人の耳は同じ強さの音でも低い音ほど小さく感じます。同じ強さで鳴らしても低いベースの音は歌声より小さく聞こえる、というのがこの性質で、騒音計はこれをまねて、低い音を割り引いてから音量を出します。この割り引き方の決まりが A 特性で、騒音の大きさとしてよく見る「dB(A)」は、この重みを付けた値です。

音の高さごとのエネルギーの割合を3色の棒で示し、耳の感度 (A 特性の重み) をオレンジの線で重ねたグラフ。オレンジの線は右の高い音ほど 0dB に近く、左の低い音ほど大きく下がり、20〜31.5Hz では -45dB 付近。ブラウンの紺色の棒は、線が大きく下がっている左端の 20〜125Hz に集中している。ホワイトの棒は右端の 2000〜8000Hz に集中し、ピンクはどの高さにもほぼ同じ高さで並ぶ

オレンジの線は、騒音計が音の高さごとにどれだけ数えるかを表しています。1000〜4000Hz ではほぼそのまま数えます。ところが 100Hz ではおよそ -19dB、エネルギーでいえば約 80分の1 しか数えません。ブラウンの紺色の棒は、この線が大きく下がっている左側に集まっています。

3色を同じ総量 (RMS) にそろえてから、騒音計の重みを付けて測り直すと、こうなりました。

A 特性で測った値 (総量との差)C 特性で測った値 (総量との差)
ホワイト+0.2dB-1.0dB
ピンク-2.7dB-0.7dB
ブラウン-12.9dB-1.9dB

A 特性で見ると、ブラウンはホワイトより 13.1dB 小さい値になります。エネルギーでいえば約 20分の1 です。ただし、耳がどれだけ低い音を割り引くかは、音の大きさで変わります。大きな音では低い音も比較的よく聞こえるようになり、その聞こえ方に近いのが、低い音をあまり割り引かない C 特性です。C 特性で見ると、3色の差は約 1dB しかありません。A 特性はもともと小さめの音の聞こえ方をもとに作られた重みで、今の基準の曲線 (ISO 226) と比べると 60phon、ふつうの会話くらいの大きさに合うとされています (Yokoyama ほか 2015, doi:10.1250/ast.36.24)。静かな部屋で小さめに流すなら A 特性が目安になり、音量を上げるほど耳の聞こえ方は C 特性の側に寄っていきます。どちらも、人が感じるうるささを直接測ったものではありません。

同じうるささで比べると、順位が逆転する

3色を A 特性の S/N 比 (話し声とノイズのうるささの比) でそろえて話し声に混ぜ、音声認識に書き起こさせました。

文字の誤り率とS/N比の関係を2枚並べた図。左は総量 (RMS) でそろえた第3章の結果で、ブラウンの太い実線がいちばん下にあり、-5dB で 23%。右は耳の重み (A 特性) でそろえた結果で、ブラウンの太い実線がいちばん上にあり、-5dB で 72%。ホワイトの点線は左ではピンクに近いが、右ではいちばん下になる

(図は音声認識に聞かせて測った結果です。聞き手は人ではありません。誤り率が高いほど、話し声がよく隠れたことを表します)

A 特性の S/N 比+10+50-5-10-15
ホワイト6.77.113.529.958.387.0
ピンク4.89.723.159.086.994.3
ブラウン6.418.133.971.595.093.7

(文字の誤り率 %、20 文の平均。ノイズなしは 4.9%)

総量でそろえた第3章では、-5dB の誤り率はピンク 75.5%、ホワイト 60.5%、ブラウン 23.0% でした。ピンクとホワイトの順は変わりません。ブラウンだけが、最下位から首位に移っています。

1つの文で追うとこうなります。「今日の会議は午後から始まる予定です」に、A 特性の S/N 比 -5dB で混ぜた書き起こしです。

ノイズ書き起こし
ホワイト今日の会議は午後から始まる予定です
ピンク今日の会議はどうもから始めると思います。
ブラウン今日の会議はごもから始めます

第3章では、同じ文でブラウンだけが一字違わず書き起こされていました。今度はホワイトだけが無傷です。ただしこの文はノイズなしでも「午後」を「5号」と誤ることがある文で、1文の結果には偶然も混ざります。

逆転の理由は、やはり話し声の帯域

効き目を決めているものは、第3章から変わっていません。ノイズのうち、話し声の帯域 (300〜3400Hz) に入っている量です。

かけ算で追うと分かります。

ブラウンが話し声の帯域に置いているエネルギーは総量の 6% だけで、ホワイトの 39% と比べるとずっと少なくなっています。ところが騒音計で同じうるささにするにはブラウンの総量をエネルギーで約 20倍にしなければならず、6% の 20倍は 120% なので、ホワイトの 39% の約3倍になります。同じうるささで流すと、話し声の帯域に届くエネルギーはブラウンのほうが3倍多いのです。

dB で言うと約 5dB の差で、測った値もそうなっていました。A 特性の S/N 比 0dB のとき、話し声の帯域だけで数えた S/N 比はホワイトが +5.6dB、ブラウンが +0.6dB です。話し声の帯域の S/N 比が同じところで比べると、2色の誤り率は近い値になります (帯域の S/N 比 +0.6dB で、ホワイト 29.9%、ブラウン 33.9%)。第3章で「話し声の帯域で数え直すと3色がほぼ1本に重なる」と書いたのと同じことが、物差しを変えても起きています。

流すならどうそろえるか

家で流すノイズの音量は、ふつう耳で聞いて「このくらいなら気にならない」という大きさに合わせて決めるので、実際の使い方は、総量ではなく「うるささ」でそろえた比較のほうに近くなります。

流し方近い物差し話し声を隠す力
静かな部屋で、小さめの音量で流すA 特性ブラウン > ピンク > ホワイト (この章で測定)
大きめの音量で流すC 特性 (総量でそろえた第3章と約 1dB の差)ピンク > ホワイト > ブラウン (第3章の結果からの推論)
低音の出ない小さなスピーカーで流すA 特性はほぼ変わらない1行目と同じと考えられる (計算からの推論)。音の感じは変わる

たとえば夜に隣の部屋の話し声が気になって、小さめの音量でノイズを流すとします。この場合はブラウンが向いています。同じうるささに感じる範囲で、話し声の帯域に最も多くの音を届けるのがブラウンだからです。

夜のアパートを断面で描いたイラスト。中央の壁の左の部屋では2人がソファで話していて、灰色の吹き出しが壁のほうへ流れ、壁を越えると薄くなっている。右の部屋では1人がベッドで本を読んでいて、壁ぎわの棚に置いたスピーカーから紺色の音の波が部屋の中へ広がり、壁を越えてきた話し声を包んでいる。ラベルは左が「隣の部屋の話し声 壁を越えると小さくなる」、右が「小さめの音量で流すブラウンノイズ 話し声の帯域にも音を届けて、話し声を覆う」

(イメージ図です。背景は画像生成 AI で作り、スピーカーとラベルを描き足しています)

音量を上げていくと耳が低い音もうるささとして数えるようになるので、ブラウンだけを大きく鳴らせるという有利さはだんだん消えていきます。大きめの音量の行は、C 特性でそろえた比較を直接測ってはおらず、総量でそろえた第3章の結果から判断しています。

この章が言えないこと

「うるささ」は A 特性と C 特性で近似していて、人が感じる大きさを計算する方法 (ISO 532 のラウドネス) は使っていないので、この章の「同じうるささ」はあくまで目安です。

聞き手は音声認識 (faster-whisper small) で、人の聞き取りとは違います。低音を切る計算は理想的なフィルタで、実際のスピーカーを測ったものではありません。

ブラウンノイズで検索すると、睡眠や集中、ADHD についての話が多く出てきます。この章ではそうした効果は扱っていません。研究の側からどこまで言えるかは、第7章「ホワイトノイズの効果は研究でどこまで言えるか」でまとめる予定です。

この章で分かったこと

ホワイトピンクブラウン
エネルギーの置き場所4〜8kHz に 50%ほぼどのオクターブにも 11〜12%63Hz 未満に 68%
話し声の帯域 (300〜3400Hz) に置く割合39%41%6%
同じ総量での騒音計 (A 特性) の値基準-2.9dB-13.1dB
総量でそろえた -5dB の誤り率 (第3章)60.5%75.5%23.0%
騒音計でそろえた -5dB の誤り率29.9%59.0%71.5%
200Hz 未満を切ったときの騒音計の値の変化0.0dB0.0dB-0.4dB

ブラウンノイズは、同じ総量でも騒音計ではずっと小さく出る、うるささの割にエネルギーの多いノイズなので、話し声を隠す力の順位は、何でそろえるかという物差しで入れ替わります。騒音計で同じうるささにそろえるなら、ブラウンが最もよく話し声を隠します。 どちらの物差しでも、効き目を決めていたのは話し声の帯域に入るエネルギーの量でした。

ここまでは、雑音で話し声を覆う話でした。覆う側が別の人の話し声になると、効き目は帯域だけでは決まらなくなります。その場合はカクテルパーティー効果で測っています。