← ブログに戻る

KDP 7枠をBing需要で選んで外した実測

アンカリング効果 フレーミング効果 確証バイアス

拙著『エンジニアの心理トリック大全』のKDPキーワード、枠3の中身です。認知バイアスの本なので、それらしい語が並んでいます。

エンジニアの心理トリック大全 表紙 エンジニアの心理トリック大全
認知バイアスから読み解くエンジニアの実務心理学。本記事で7枠を測っているのがこの本です

Amazonで測り直したら、この3語で枠1つ、まるごと死んでいました。

KDPのキーワード7枠

KDP (Amazon Kindle Direct Publishing) は Kindle の出す側です。読者が端末やアプリで買って読む、Kindle Unlimited の読み放題に並ぶ、あの Kindle。そこに自分の本を置くための登録窓口が KDP で、出版社を通さず個人でも使えます。

本を登録するとき、タイトルや説明文とは別に検索用のキーワードを7つまで指定できます。1枠あたり50文字で、スペース区切りにすれば1枠に複数語を詰められます。

検索の重みは タイトル本体 > サブタイトル > この7枠 の順とされていて、7枠は「タイトルに入れきれなかった語の保険」という位置づけです。表紙を作り直さずに触れる唯一の検索面でもあるので、出したあとに打てる手はほぼここに限られます。

その貴重な7分の1を、私は誰も打たない語で埋めていました。

需要3,212の語がバイアステープだった話

枠を決めたとき、私は Bing Webmaster Tools の月間インプレッションを需要の代理指標にしていました。数字自体は実測値です。たとえば バイアス は月3,212。堂々たる数字で、枠2に入れました。

Amazonの検索窓に バイアス と打つと、こうなります。

['バイアステープメーカー', 'バイアステープ 幅広', 'バイアステープ 黒', 'バイアス',
 'バイアステープ 白', 'バイアステープ 金', 'バイアステープ ふちどり',
 'バイアステープ 赤', 'バイアステープ 貼るだけ', 'バイアステープ アイロン接着']

10件中9件が手芸用品です。布の縁を包む、あのテープ。認知バイアスの本は、手芸売り場に並んでいたことになります。

3,212 はウェブ検索の需要で、Amazonで本を探す人の検索需要ではありませんでした。

Amazonの検索窓が裏で叩いているAPI

上の結果を取ってきた方法ですが、検索窓に文字を打つと候補が降りてくる、あの動作の裏側は認証もキーも要らない公開エンドポイントで、prefix を渡せば誰でも同じものを引けます。

curl -s -G "https://completion.amazon.co.jp/api/2017/suggestions" \
  --data-urlencode "prefix=認知バイアス" \
  -d "alias=aps" \
  -d "mid=A1VC38T7YXB528" \
  -d "market-id=6" \
  -d "client-info=amazon-search-ui" \
  -d "lop=ja_JP" \
  | python3 -c "import json,sys; print([s['value'] for s in json.load(sys.stdin)['suggestions']])"
['認知バイアス事典', '認知バイアス 本', '認知バイアス 心に潜むふしぎな働き',
 '認知バイアスの教科書', '認知バイアス大全', '認知バイアス辞典',
 '認知バイアス入門', '認知バイアス 鈴木宏昭', '認知バイアス 図解', '認知バイアス']

事典 教科書 大全 入門 図解。10件のうち6件が、本を買おうとしている人の語です。この語には本の棚が立っています。

一方、枠3に入れた3語はこうでした。

prefix=アンカリング効果  →  []
prefix=フレーミング効果  →  ['フレーミング効果']
prefix=確証バイアス     →  ['確証バイアス']

aliasaps (全ストア) で固定します。digital-text (Kindleストア) に変えると結果が変わり、過去の測定と突き合わせられなくなります。私は一度これを取り違えて、売上首位の本が1位を取っている語でゼロを観測しました。

空とエコーは意味が違う

ここは同じ日のうちに一度読み違えています。当初は「入力語のエコーが1件返るだけ=Amazonでは打たれていない」と解釈して、そのまま結論まで書きました。

逆でした。

でたらめな文字列を投げて確かめます。

prefix=ぬるぽがが       →  []              未知の文字列には空が返る
prefix=アンカリング効果   →  []              本当に打たれていない
prefix=確証バイアス      →  ['確証バイアス']   既知クエリのエコー

Amazonは知らない文字列を返してよこしません。だからエコーが返る語は、実際に打たれています。

空だけが本当の需要ゼロです。この区別を持たないまま 確証バイアスアンカリング効果 を眺めると、どちらも候補がほぼ無いので同じ扱いにしてしまいますが、前者は打たれていて、後者は誰も打っていません。

ちなみに アンカリング効果 で Kindleストアを検索すると、ヒットは8件で、その1位は光合成細菌の資材でした。本の棚がそもそも存在していません。

途中まで打った人に出るか

もうひとつ見ておきたいのが、語を全部打ち終える前に候補として提示されるかどうかで、前方一致を短いほうから順に伸ばしていって、最初に候補化される位置を測ります。

認知バイアス     '認知バ'      で出る (3/6字)
確証バイアス     '確証バ'      で出る (3/6字)
フレーミング効果  'フレーミング効' で出る (7/8字)

フレーミング効果 は8文字中7文字まで打たないと出てこないので、ほぼ全部打ち切った人にしか提示されず、途中で他の候補に流れる余地もありません。短い位置で出る語ほど強い。

最初はこれを「語の50%の長さで1回だけ試す」実装にしていたのですが、前置が騒がしい語が無関係な商品の候補に埋もれて誤判定されたため、いまは 50 / 70 / 85% と末尾-1文字を短い順に試す形にしています。

対照語を先に通す

ゼロが返ったとき、それが「本当に需要ゼロ」なのか「叩き方が壊れている」のかは、結果だけを見ても区別できません。alias を取り違えたときの私が、ちょうどその状態でした。そこで測定の前に、答えの分かっている語を必ず1つ通します。日本市場なら ナレッジ を投げて、候補に ナレッジグラフ が含まれることを確認します。ここが落ちたら測定を中止して、その日の結果は使いません。対照語は、ゼロという観測を信じてよいかどうかを決めるための、たった1回のリクエストです。

4段階に分けた

ここまでの4点を、語を4分類するCLIに落としました。

Amazonサジェストの応答で語を4つに分ける判定表

判定条件打ち手
本の需要あり候補に購買意図語 (本・入門・教科書・大全…) が続く枠・タイトル・サブタイトルに使う
検索される続きは出るが本の文脈でない本の語としては使わない
裾野クエリ候補が自分のエコーだけ単独では弱い。他の語と束ねる枠に入れる程度
打たれていない候補が空使わない。順位を取っても流入しない

この本の語を通した結果です。

判定本を買う文脈の候補Kindleストア順位
認知バイアス本の需要あり6— (枠に無かった)
バイアス検索される (手芸用品)0圏外
BATNA検索される0不在
確証バイアス裾野クエリ0不在
心理トリック裾野クエリ0不在
フレーミング効果裾野クエリ0不在
アンカリング効果打たれていない0不在

心理トリック がタイトルど真ん中なのに裾野クエリで、しかも競合3件の棚に入れていないのは別の問題です。ここでは触れません。

結論の向きが変わった

この本で唯一「本の需要あり」と出たのは 認知バイアス でした。そしてこの語は7枠に1文字も入っていません。サブタイトルの「認知バイアスから読み解く」に含まれているだけです。

その状態で、認知バイアス大全 の検索結果に6位で付いています。7枠を使って取りにいった語では1つも順位が出ていないのに、枠外の語のほうが先に棚に立っていました。

打ち手は「空いている語を探す」から「既に立っている棚で上を取る」に変わります。新しい語を探す作業だと思っていたものが、測ってみたら実際には既に着いている場所で順位を上げる作業でした。

競合件数と需要は別の軸です。アンカリング効果 は競合8件で、件数だけ見れば空き地に見えます。中身は光合成細菌でした。需要が空の語は、競合が何件でも使いません。

測る場所を間違えていた

参照元にした自分のメモには、列の定義として「Bingだけ大きい語はウェブ検索の需要で、Amazonでの購買検索とは限らない」と書いてありました。記事を書くときにはこの区別を持っていて、施策を決めるときには持っていませんでした。Bing Webmaster Tools が見ているのは Bing のウェブ検索で、Amazonの購買検索がどうなっているかについては何ひとつ知りません。返ってきた 3,212 は、その道具が見ている場所の数字でしかありませんでした。Amazonで本が売れるかを知りたいなら、Amazonに聞くしかありません。

判定ツールは /amazon-demand という Claude Code のスキルにまとめて、7枠を組む前・改題を決める前に必ず通す運用にしました。本文の測定値はすべて 2026-08-30 に実行したもので、上の curl をそのまま叩けば再現できます。

エンジニアの心理トリック大全 関連書籍 エンジニアの心理トリック大全 認知バイアス エンジニア · システム1/2 · コードレビュー心理学 · 心理的安全性 (Zennで全章無料) 書籍ページを見る →
この記事が答えている課題 課題の地図を見る →