Google Play Booksの20%公開義務
技術書を出す面を増やそうと思って Google Play Books を調べていたら、思っていたより面白い場所でした。
出版社が本を引き揚げています。理由はAI学習です。そして私は、たぶん逆のことをします。
参加条件は「本文の最低20%を公開すること」
最初に知っておくべきなのはここでした。Google Play Books に本を出すと、本文の最低20%をGoogle Booksでブラウズ可能にする義務が生じます。
公式には20%から100%の間で選べる、と書かれています。裏を返すとゼロにはできません。「販売はするがプレビューは出さない」という選択肢がありません。これは任意のオプションではなく参加条件です。
Amazonの商品ページと比べると、性質がまるで違います。
| インデックスされる範囲 | |
|---|---|
| Amazon商品ページ | 書名・著者・説明文 |
| Google Play Books | 本文の20%以上 |
Google Books は登録された本の全文をスキャンしてインデックスします。タイトルに含まれない語でも、本文中にあれば検索結果に出ます。そしてGoogle Booksのインデックスは、Googleのウェブ検索インデックスと統合されています。
つまり本を出した瞬間、その2割が検索エンジンから読める状態になります。

出版社は、それを嫌って引き揚げている
Lean Media の Ian Lamont は、17冊中15冊をGoogle Play Booksから引き揚げました。理由を彼はこう書いています。
公正な対価が支払われないかぎり、自社の本をGoogleのAI、あるいは提携企業のAIモデルの学習に使われたくない
引き揚げの背景には、もっと大きな動きがあります。2026年7月、Hachette Book Group・Cengage Learning・Elsevier、そして作家のScott Turow が、ニューヨークの連邦地裁でGoogleを提訴しました。Google Books は「限定された目的のために」本を提供する取り決めだったのに、その範囲を超えてGeminiの学習に使われた、という主張です。
訴状では、Googleの内部文書に「著作権のある書籍をAI学習に使うことはGoogleにとって極めて問題含み」であり、巨額の制裁金につながりうると書かれていた、とも指摘されています。Googleはこの件についてコメントを出していません。
係争中なので、どちらが正しいかを私が判断する立場にはありません。ただ、訴訟の的になるということは、そこに価値があるということでもあります。
Googleにとっての Play Books
売上規模で見れば、Play Books は Kindle の相手になりません。日本の電子書籍で購入実績のあるストアを調べると、Kindleストアが28.6%で首位、以下ピッコマ、LINEマンガと続き、Google Play ブックスは上位に名前が出てきません。
それでも私は、このサービスが畳まれる可能性は低いと見ています。理由はGemini に接続されているからです。選んだ Play Books の本を Gemini Notebook で扱う機能が、すでに入っています。
構造で捉えるとこうなります。Google にとって Play Books は、権利者が自分の手でアップロードしてくれる書籍コーパスです。スクレイピングと違い、取得経路を説明できます。AIの時代になって、この性質の価値はむしろ上がりました。
畳むどころか、位置づけが上がったサービスだと思います。
守る側と、見つけてもらう側
ここまでの話は、出版社にとっては「守るべきか」の問題です。本文を出せば読まれます。読まれれば学習されます。対価はありません。だから引き揚げます。筋の通った判断です。
私の立ち位置は逆でした。
私は『なぜあなたのサイトはChatGPTに無視されるのか』という本で、AIに見つけてもらうための経路を3つに整理して書きました。RAGで引かれる経路、エージェントの検索で拾われる経路、そして将来の学習データに入る経路です。3つ目は、書いた当時いちばん手触りのない経路でした。狙って入る方法が思いつかなかったからです。

Google Play Books は、その3つ目に手が届く数少ないドアかもしれません。
大手出版社が「無償で学習に使われる損失」と呼んでいるものを、私は「第3経路への投入」と呼ぶことになります。同じ現象です。立場が違うだけです。守るために引き揚げる人と、読まれるために差し出す人が、同じドアの前ですれ違っている。
私が売っているのは本そのものよりも、AIに引用される書き方のほうです。だとすれば、自分の本をAIに読ませる導線を自分で持っていないほうが、よほど説明がつきません。
ただし、都合よく解釈しすぎないために
私の本がGeminiの学習に使われるという保証は、どこにもありません。 それは訴訟の原告側の主張であって、Googleが「学習に使います」と表明しているわけではありません。むしろ係争中である以上、今後この慣行が変わることも十分あります。
効果を測る手段も、現時点では貧弱です。「Geminiが私の本を知っているか」を確かめる方法は、質問して答えを見るくらいしかありません。学習データの中身は外から観測できません。
20%公開そのものにもコストがあります。 Zennで有料で売っている本の2割が、Google検索から無料で読める状態になります。これは売上を食う可能性のある取引です。
そしてもう1つ、構造的な排他があります。
KDP Selectとは両立しません
Kindle の KDP Select は、電子版を他所で配信しないことが加入条件です。20%公開はこの独占条項に抵触します。つまりSelect加入中の本は、Google Play Books に出せません。
私の本を数えたところ、Zennと併売していてSelectに入っていない本が10冊ありました。今回動かせるのはこの10冊だけです。
この排他を逆から眺めると、見え方が変わります。KDP Select の機会費用として普段計算するのは「他ストアで売れたはずの売上」です。でもLLMOの文脈で数えると、Selectに入っている本は、Google検索に本文を載せる機会も同時に捨てていることになります。
読み放題の収益と、検索面での本文露出。どちらを取るかという問題だったわけです。私はこれまで、後者を数えていませんでした。
何を見るか
というわけで、1冊出してみます。
最初に出すのは『LLMOに最適化されたホームページをゼロから作る』です。Zennで500円、KDPではほぼ売れていません。Select非加入なので独占の問題も起きない。失うものが最も少ない本を実験台にします。
見る指標は3つです。
- 本文中の特徴的なフレーズでGoogle検索したとき、books.google.com が出るか。 出なければ「全文インデックス」は理屈倒れです
- Zennの売上が落ちるか。 20%公開が食い合いを起こすかどうか
- 時間をおいてGeminiが本の内容を答えられるようになるか。 これがいちばん当てにならない指標ですが、いちばん知りたいことでもあります
売上は期待していません。Google Play Books にはAmazonのような検索流入がなく、自分で送客しない限り何も起きない面です。3ヶ月後に0冊でも、それは失敗ではなく想定どおりです。
測りたいのは、自分の書いたものがAIに届くルートが実在するのかです。
結果は追って書きます。理屈倒れだったら、それもそのまま書きます。
参考
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